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らてるね賞2018大賞受賞者 若林瑞沙さん

らてるね賞2018の大賞を受賞してくれたのは
札幌座「フレップの花、咲く頃に」と
Yhs「きつい旅だぜ」のデザイナー
若林瑞沙さんです。

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若林さんはこれまでにも

2013年、特別功労賞を受賞してくれてますし
(詳しくは、このブログの<https://laterne.blog.so-net.ne.jp/2015-06-15-1>と
 <https://laterne.blog.so-net.ne.jp/2015-06-15>をご覧ください)
2015年にらてるね賞実行委員会で配布したチラシもデザインしてくれたり
らてるね賞2015では
 札幌座「空知る夏の幻想曲」で審査員特別賞
らてるね賞2017では
 札幌座「象じゃないのに」で優秀賞
を受賞してくれています。
そして今回初めて、大賞を受賞してくれました。

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若林さんへは、大きならてるね(LEDランタン)と賞金5万円
そして審査員の皆さんからの選評をもとにしたこのような言葉を送らせていただきました。

 この2作品が、同じデザイナーとは!引き出しの多さに審査員一同驚かされ、大賞は若林さん以外にないと、全員納得しました。
 「フレップの花、咲く頃に」は、畳の目や敷物の織り目まで書き込んだ繊細さ、日本の中に、ロシア、朝鮮そしてアイヌそれぞれの文化のシンボルを表わし、この劇のテーマをさりげなく伝えて、静謐ともいうべきおだやかな生活風景の中に、さまざまな劇性が嗅ぎ取ることができました。
 「きつい旅だぜ」は、大胆な構図と勢いのある筆使いで、青ざめた顔の男性が豪華な鯛の御造りを手にし、そこにユーモア感をただよわせた黄色の大きな文字を配置し、対比されている暗喩それぞれが微妙なバランスであり、軽妙でありながら緊張感を失っていません。
 一方は象徴的モティーフを繊細に描き静謐な世界を作り出し、他方は自由闊達な筆さばきと大胆な構成で見る者を圧倒。しかしどちらにも共通して、ウィットに富んだコミカルなテイストがあり、それがこの作者特有のものなのだろうと、気づかされました。観客に対し直接的に表現を投げかけるのではなく、観客自身の中に存在する想像力に訴えることで、フライヤーの目的である「舞台へいざなう」仕事が成就しています。
 この2作品には間違いなく「メタファー(暗喩)の成功」があります。メタファーを嗅ぎ取ることができる観客ならば、舞台を想像してつい観に行こうかと思ったに違いありません。
審査員一同、満場一致で、らてるね賞2018大賞を贈らせていただきます。


若林さんへのインタビューです。 

Q:1  らてるね賞を受賞したと聞いた時のことをお聞かせください。
 
普段しない夕飯を珍しく作っていた時に電話を頂きまして、大賞です、と。
素直に嬉しかったです。夕飯の味がゴージャスになりました。
二作品合わせての賞で、ひとつが初めてお仕事させて頂いたyhsさんだったので
それも嬉しかったです。
 
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Q:2  受賞作はどういう構想・アイデア・経緯でデザインなさったんですか?
 
札幌座さんの「フレップの花、咲く頃に」は
 1)敗戦後のサハリンで生活していた方の手記を元にした脚本
 2)フレップという赤い実をビジュアルに出したい
 3)日本人とロシア人との不思議な交流(そこに韓国人とアイヌも加わる)
上記が最初の打ち合わせで貰ったヒントです。
脚本はまだ無い状態でした。
戦後の特別ドラマチックな話を書くのでは無く、日々を生きて行く日常、それこそ人の日記を覗き込む様な芝居なのだなと打ち合わせで感じたので、挿絵の様なビジュアルにしようと考えました。
 
最初は、このお話の背景には史実があるので、家の造りや壁はそもそも白壁でいいのか?木目?窓のデザインはどんな感じ?と考える度手が止まってしまい、作業がまったく進まなかったんです。
その時代の「匂い」みたいなものを私が把握していないとこれはダメだなと。
歴史は調べると出てくるんですけど、私が知りたいのは視覚的なものだったので
開拓の村にいって資料写真を撮りにいきました。
実はこの時まで家の外観とその庭にフレップの実が咲いている構図を考えていたので
資料写真がほとんど外観で、全く役にたって無いんですけど…
でも色々な雰囲気を感じられたので、その後は完成したビジュアルになるまで早かったです。
簡易的な神棚や白壁の雰囲気、こじんまりした間取り、柱時計のデザインが意外とちゃんとしていた事、ペラペラの座布団。そこにロシアの人々がきたらどう部屋をレイアウトするかなと想像して、神棚にマトリョーシカ、畳にロシア伝統の柄の絨毯、ちゃぶ台に似合わないデカいサモワールなどアイデアをプラスしていきました。肝心なフレップの実も生活の一部として見せようと漬物壺でジャムを作っている設定にしました。
 
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演出家の斎藤歩さんに初校を見せた時に、韓国とアイヌの要素も少し足して欲しいというリクエストを頂いたので白無地の座布団からそれぞれのイメージの座布団の柄に変更しました。
このリクエストにより、チラシにストーリー性と観る人の期待感がぐっと高まったと思うので、ありがたかったです。
 
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yhsさんの「きつい旅だぜ」は
この作品は、あるシーンによって、観客がステージを客観的に観る側から突然舞台に立たされるような感覚になる大きな展開があるお話です。
脚本・演出の南参さんから、ネタバレせず、あらすじにもそこは明記しない方向で進めたいというリクエストでした。
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舞台を観た方は分かるかと思うのですが、チラシ表の旅館の男は実際には舞台に登場していません。でも鍵を握る人物です。打ち合わせしていく中で、舞台には登場しないこの人物をメインにしてもいいよねという話になり、その方向でビジュアル案を考えていきました。
チラシで狙ったのは「人はいかに情報に左右されるか」。
観客が舞台を観る前と後でチラシの印象が変わる事を意識しました。
舞台もそこが大きなテーマだと思うので、リンクできたらいいかなと…。
 
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なので、この男が印象に残るように全面に、さらにタイトルで挟む事で視覚的にビジュアルに目がいくようにしました。絵のタッチも淡白と陽気が混ざるように。家族のお話なので身内の誰かが描いたような素朴感が出るようにパステルを使用しました。服や顔の灰色は微妙な素材感を出したかったのでパソコンで塗った色を一度出力→スキャンして色むらを出しています。比べないと正直解らないレベルなんですけど、パソコンで塗るよりパステルと自然に馴染ませる事ができたかなと思います。
 
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単純な線で書く絵は非常に難しくて、少しの角度で全然印象が変わるので苦労しました。昨年作ったチラシで一番初校まで時間がかかったのがこのチラシだと思います。
 
 
Q:3  受賞作の他にも、これまで手掛けられた演劇宣伝美術作品があればご紹介ください。
 
去年の札幌座「暴雪圏」今年では劇団千年王國「贋作者」tatt「命を弄ぶ男ふたり」や日本劇団協議会「二人で狂う~好きなだけ」などを担当させて頂きました。
 
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札幌座「暴雪圏」
 
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千年王國「贋作者」
 
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tatt「命を弄ぶ男ふたり」
 
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日本劇団協議会「二人で狂う~好きなだけ」
 
2000年~2018年前半までの宣伝美術はホームページにアップしています。
www.st-copain.com
演劇以外の演奏会やリサイタル、バレエなどのチラシも担当させて頂く事もあります。
後は、飲食店や施設のロゴ、オープンに関わる制作物、パンフレット等が多いです。
 
FoNA_2018_omote.jpg
FOREST of NEW ARTS
 
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萩原のり子リサイタル「私の好きな歌」
 
去年はソプラノ歌手の小林美佐子さんと後藤ちしをさんのCDジャケットを制作しました。
その少し前に福井岳郎さんのCDをデザインした時が初めてだったのですが、このジャンルも奥が深いなぁと思いました。どの作品もとても良い経験をさせて頂きました。
 
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福井岳郎さんの「ツキノホ」
 
 
Q:4  演劇宣伝のデザイン以外にも演劇の活動をなさっていますか?ご自身の演劇活動についてもしあればお聞かせください。
 
2016年に日本劇団協議会「鳥」の舞台デザインを担当しました。
 
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若林さんによる「鳥」の舞台模型
 
この時学んだ事は舞台を作る事の大変さ。作品の精度を上げるための演出家・キャスト・スタッフの努力は想像の何十倍も凄かったです。それが最終日まで続くんですよ。尊敬と同時に舞台人は変人だ!と思いました。私は普通の人間です。
 
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完成した「鳥」の舞台美術
 
Q:5  演劇宣伝デザインを始められたきっかけは何でしたか?
 
99年だったと思うのですが「逃げてゆくもの」(2000年公演)という作品のデザイナーコンペがあり、勤めていた会社の社長が出す予定だったのが諸事情で新人の私が出す事になり、それが採用された事がきっかけです。
 
Q:6  演劇の宣伝美術の仕事と、他のデザインの仕事とでは、何が違いますか?
 
大きく違うのは、宣伝美術は「お客様のご自由に」という意識がある事だと思います。
グラフィックデザインの仕事の大半はクライアントが明確に伝えたい事があって、デザイナーはその情報をどのような方法で「正確」にお客様に伝えるかを考えるのが一番重要です。
宣伝美術も勿論、演出家・脚本が伝えたい事はあります。デザイナーも「こんなメッセージを表現したい」という軸みたいのは勿論あるのですが、舞台はそもそも「こう感じる事が正解です」って事は無いですよね。チラシをみてどんな舞台なのかを当日まで想像するのはお客様ひとりひとりバラバラで、自由。手に取る側のその時のコンディション次第で目に止まるチラシは違うとも思っています。
Q:7 演劇の宣伝美術において心がけていること、こだわっていることはありますか?
 
お客様に丸投げしない事です。上記の質問の答えと矛盾してますが
ふわっとしたデザインとか、どんなジャンルなのか分からな過ぎると足を運びづらいですよね。
その作品の売りを明確にする事。公演情報はわかりやすくする事。は大前提だと思っています。
ふたつの質問を合わせると、
伝えたい事はちゃんと意識して表現する事、かつ受け止めるお客様が自由に想像できる隙を作る事
でしょうか…。偉そうに書いてますが、私の常々の目標です。
 
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若林さん、ありがとうございました。
そして、おめでとうございました。
今後も、札幌の演劇をよろしくお願いいたします。

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